寒くて乾燥する季節は、風邪をひいたり体調を崩しやすくなるもの。
因みに、2~3月は全国で月間25万人以上の人が風邪にかかってしまうそうです。
出典:
健康保険組合連合会 平成26年度かぜ(感冒)・インフルエンザ等、季節性疾患(入院外)の動向に関するレポートより
風邪が流行る時期と聞くと、お子さんがいらっしゃるお母さん、お父さんは心配になってしまいますよね。そこで今回はワーキングマザーで小児科医の伊藤明子(いとうみつこ)さんに子どもの風邪を予防する食生活についてお聞きしました。
風邪は予防が肝心。お子さんが元気に過ごせるよう、食事を通して風邪に負けない健康な体づくりをサポートしてあげましょう!
小児科医で2児の母、同時通訳、研究者の顔を持つ伊藤さん
編集部:本日はよろしくお願いします!まず簡単に自己紹介をお願いします。
伊藤さん:私は今、東京大学で「公衆衛生学(社会全体の健康のための実践と学問。伊藤さんの専門は、主に栄養と食が中心)」の研究員をするかたわら、小児科医として働いています。その前は同時通訳として働いていて、その仕事も続けています。
あとこれは職業ではありませんが、2児の母親です。もうふたりとも大きくなりましたが、医学生だった当時は息子が小学2年生、娘は小学4年生でした。今日は、母として小児科医としての視点から、風邪を予防する食生活についてお話ししていきますね。
風邪を防ぐコツは「いろんな種類の食材を偏りなく食べる」こと
編集部:さっそくですが、風邪を予防するにはどのような食事を心がければよいのでしょうか?
伊藤:風邪は感染症なので完璧に予防することは無理です。ですが、食生活と生活習慣をととのえることで免疫力が高まり、ある程度防ぐことができます。基本は睡眠と栄養ですね。
そのために、「いろんな種類の食材をバランスよく、偏りなく食べること」が大切です。そうすると、風邪の予防に必要な「微量栄養素」をしっかりと摂ることができるんですよ。
編集部:「微量栄養素」ってなんですか?
伊藤:微量栄養素とは、みなさんもご存知の「ビタミン」と「ミネラル」のこと。ビタミン・ミネラルは免疫力を高めたり、体の調子をととのえる役割を持っています。微量栄養素の中には、粘膜を強化して病原菌の侵入を防ぐ「ビタミンA」や、炎症物質を止めてくれる「ビタミンC」などがあり、どれも体に欠かせないものなんです。
編集部:やはりビタミンやミネラルは大事なものなんですね。先生の考える免疫力を高めてくれる食事とは、どのようなものでしょう?
伊藤さん:炭水化物と肉を食べすぎず、野菜と魚をしっかり摂る食事です。カラダに良いと言われている油(バージンオリーブオイルやエゴマ油など)も忘れずに。冬場なら、私はこんなメニューを作ります。
このメニューのように主食は白いごはんよりも雑穀にしていただいて、野菜と魚介類をしっかり食べるようにすると、微量栄養素をたくさん摂ることができますよ。
とはいえ、忙しくてたくさんの料理を作るのが難しい方もいると思います。そんな時は、お味噌汁やスープなどを使うと良いでしょう。汁ものなので食べやすいですし、煮込むことで野菜のカサも減らせます。家にある野菜を刻んで煮込むだけなので、忙しい時にもすぐ作れますよ。
そば粉のクレープや雑穀をおすすめしているのは、現代の食生活では単純糖質の炭水化物をたくさん摂りすぎてしまうから。まったく食べないのは体に良くないのですが、白いごはんやパンの代わりに、食物繊維や微量栄養素が豊富に含まれる雑穀がお勧めです。
食物繊維は微量栄養素を体内に取り込む手助けをしたり、体内の老廃物を排出する手助けをしてくれます。雑穀や玄米を食べることで、免疫力が高まるという研究データがあります。
編集部:ところで肉を控えるのはなぜでしょう?肉も魚も同じたんぱく質ですが……。
伊藤さん:肉がダメということではなく頻度をやや控える、ということですが、それは魚介類に比べると肉類の方が飽和脂肪酸をたくさん含んでいるから。
飽和脂肪酸をとり過ぎると内臓脂肪が増加したり、血管を硬くする性質などがあり、いろいろな病気の危険性が上がります。
魚やカラダに良いと言われている油(バージンオリーブオイルやエゴマ油など)にも脂質は含まれていますが、これらは多価不飽和脂肪酸と呼ばれるもので、これらの脂はむしろ炎症を抑える作用があります。中鎖脂肪酸であるココナッツオイルも良い脂です。
たとえば料理に使う油も、加熱する時はバージンオリーブオイル、生で使う場合はエゴマ油などと使い続けると、免疫の強化にもつながります。
食の知識は大切!でも気にしすぎもNGです
編集部:さきほど、先生がおっしゃっていた「いろんな種類の食材をバランスよく、偏りなく食べること」ですが、日頃から心掛けないと続けるのは難しそうですね。簡単にできる方法はないのでしょうか?
伊藤さん:たとえば、あまり買ったことのない野菜や魚を買ってみるのはいかがでしょう。
私たちは、気づかない間に料理のパターンやレパートリーが決まってしまいがちです。子どもにいろいろなものを食べてもらうために、今まで作ったことのない料理を作ってみる。そのために、いつもと違う食材を買ってみるんです。
編集部:普段食べないものにチャレンジするということですね。
伊藤さん:そういうことです。私が研究していることの一つに「くる病」という病気があります。
これは、ビタミンD(魚肉や干し椎茸に含まれるほか、太陽光に含まれる紫外線を浴びることにより、体内でつくられるビタミン)やカルシウムが足りなくなって体が変形してしまう病気で、栄養が不足しがちだった戦後によく見られました。
でも、栄養状態が良いはずの現代で「くる病」の子どもが増えています。「くる病」の大きな原因は過度な紫外線対策ですが、その他の原因のひとつに偏食が挙げられます。
たとえば、体に良いからと聞いて玄米菜食中心で肉や魚をまったく食べない食生活を続けることで「くる病」になることがあり、骨や体格の成長に悪影響が出てしまいます。
食に関する知識や情報は大切ですが、ネット上にある出どころのわからない情報ではなく、できるだけ病院や専門家などが出している情報を見ていただき、正しい知識を身につけ、情報の取捨選択をしていただくことも家族の健康を守る上では大切です。
編集部:正しい情報をもとに、いろいろな食材を食べさせてあげることが大事なんですね。
伊藤さん:同様に、魚介類に含まれることがある重金属(水銀やカドミウム、鉛など)や農薬、食品添加物については、知っていた方がいいですが、気にしすぎもよくないと思います。食事の面で注意をしているつもりでも、それらの物質は気がつかないうちに体の中に取り入れてしまうものです。
でも体には不要なものを排除する機能が備わっています。その機能を助けるのがビタミンやミネラルなどの微量栄養素です。過度に気にして魚介類を一切食べないよりも、魚介類を食べた方が微量栄養素を摂ることができるので、健康に良いという研究結果も出ています。
それでも風邪をひいてしまったときは「野菜たっぷりのスープ」がおすすめ!
編集部:免疫力を高める食事を続けていても風邪にかかってしまうことがあります。そういうときはどんな食事を食べさせてあげればよいですか?
伊藤さん:一般的には風邪をひいたときの定番メニューはおかゆですが、おかゆは消化吸収はよいものの、糖質オンリーでたんぱく質も微量栄養素も足りません。なので、おかゆベースでしたら卵や魚、鶏肉などたんぱく質とお野菜をたくさん混ぜたり、あるいは先ほどご紹介した具沢山の味噌汁やスープを出してあげましょう。
うちではトマトベースのスープに野菜をたくさん入れて煮込んだミネストローネ風のスープを作ることもあります。
野菜にはビタミンやミネラル、食物繊維がたっぷり含まれているので、体の調子を整えてくれます。スープには野菜だけでなくたんぱく源として鶏肉や豆も入れてよく煮込むとよいですね。消化もよくて栄養もバランスよく摂れますよ。
また、普段から塩分を控えめにすることも大切です。塩分はとり過ぎてしまうと体の中で炎症を起こし、さまざまな病気のリスクが上がります。
編集部:具だくさんのお味噌汁やスープは美味しそうで、体にも良さそうですね。私も子どもが風邪をひいたときは試してみようと思います!先生、今日はありがとうございました。
伊藤さんのお話を聞いて
免疫力を高め風邪を予防するため、さまざまな食材をバランスよく食べることが必要という話を聞いた時に、当サイトの
「もちもち肌は、毎日の食事から!? 冬の乾燥肌を防ぐために、今日からできる4つの食習慣」でインタビューした蘇原しのぶ先生のお話を思い出しました。
蘇原先生も、乾燥肌を防ぐには「ひとつの食材を食べすぎず、多くの品目を少量ずつ食べるのがおすすめ」だとお話しています。
「〜が体に良い」と聞くと、ついついそればかり食べさせてしまいがちですが、お子さんが健やかな体を作るために、偏りのない食事づくりを心がけていきたいですね。