AI活用で生産計画を自動立案!
生産性向上と働き方改革をめざす
本システムは、熟練者が複雑な制約条件をもとに立案していた計画を、高度なAI技術を活用して再現・進化させるもの。最大16兆通りもの組み合わせの中から最適解を立案することに成功しています。生産革新グループの村上 強氏、木村 昂氏が、本システム開発の経緯や導入後の成果を紹介します。
「自分の仕事はほぼ全て自動化できる」
現場の熟練者からの声がきっかけに
このプロジェクトがスタートしたのは2018年のこと。当時、ニチレイフーズでは生産性向上や働き方改革の一環として、間接作業の省人化を全社的に推進していました。そこで工場のメンバーにアンケートを取ったところ、とある生産計画の熟練者が「自分の仕事はほぼ全て自動化できる」と回答したのです。生産計画は熟練の担当者がノウハウや経験則に基づいて複雑な条件を考慮しながら立案しているため、自動化するのが難しい業務だとされてきました。しかし、その熟練者が「自動化できる」と言うのであれば、本当に実現できるかもしれない。そのような思いのもと、計画立案をシステム化するソリューションの探索を始めました。
はじめは製造業などで使われている生産計画システムをいくつか検証したのですが、ニチレイフーズの生産プロセスは複雑であるため、既存のシステムでは思うような成果が出ませんでした。その時にたまたま出会ったのが、日立製作所の「Hitachi AI Technology/計画最適化サービス」です。このサービスには数理最適化技術と機械学習を組み合わせた高度なAI技術が使われており、鉄道のダイヤ編成など複雑な制約条件の中から瞬時に最適解を導き出すことができるため、私たちの生産計画にも活用できるのではないかと考えたのです。
熟練者の“頭の中”まで徹底的に可視化!
16兆通りの組み合わせから最適解を導く
開発にあたって、まずは日立製作所の担当者と一緒に工場へ何度も足を運び、熟練者へのヒアリングを重ねて計画立案に関する一連の業務を見える化しました。単に作業内容を聞くだけでなく「立案時にどのような情報をインプットしているのか」「どのような制約が存在するのか」「普段どんなことに気をつけているのか」など、熟練者の思考プロセスも含めて明文化されていない情報を徹底的に引き出し、データに落とし込んでいきました。
さらに、過去数年分の膨大な生産計画データを用意し、整形した上でAIに学習させることで、熟練者の計画パターンを数値化。これらのデータをかけ合わせて解析し、1工場で最大16兆通りもの組み合わせの中から最適解を高速に導き出す仕組みを構築しました。
計画立案時は、設備の稼働状況や納期、コスト、作業員のスキル、勤怠といった複雑な制約条件を考慮する必要があります。そして、熟練者は全ての制約条件を満たせない場合でも、臨機応変に条件を緩和しながら計画を立案しています。このような熟練者ならではのノウハウや経験則に基づく立案方法を再現すべく、地道に検証やヒアリングを重ねながらチューニングを行ない、少しずつ精度を高めていきました。
計画にかかる時間を1/10に短縮。
作業負荷だけでなく心理的負荷も低減
プロジェクト開始から約2年の歳月を経て、2020年に「最適生産・要員計画自動立案システム」の本格稼働がスタートしました。稼働直後から社内外の反響が大きく、生産計画の担当者からは作業負荷の削減につながっただけでなく、「絶対に守らなければならない制約条件をシステムが確実に守ってくれるので、心理的プレッシャーが低減された」という声もありました。2024年現在、6つの工場に導入し、従来の1/10程度の時間に短縮して生産計画を自動立案することが可能となりました。
今回のプロジェクトは単純にAIやシステムを導入すれば実現できるものではなく、熟練者の頭の中にあるノウハウや勘、複雑な制約条件のパターンや重みづけなど、現場ならではのナレッジをいかに翻訳してシステムに落とし込めるかがとても重要でした。そう考えると、「テクノロジーの専門性」と「生産工場の専門性」の双方を理解する人材が社内にいることは、プロジェクトを推進する上で大きな役割を果たしたのではないかと思います。
そして、今でこそAIはあらゆる業種に広く浸透していますが、プロジェクトを立案した当時は加工食品業も含めてそこまでAIの実用化が進んでいませんでした。そのような中で新しい技術にチャレンジできたのは、業界に先駆けてIT導入を積極的に推進してきた企業風土があったからです。
省人化や作業効率化の取り組みは、今後も推進していく必要があります。例えば、短時間勤務者が柔軟に働ける仕組みづくりなど、多様な働き方に対応していくことで、人手不足の課題を解消し、持続可能な生産活動を実現できると考えています。これからも私たち生産革新グループが率先してその役割を担い、課題解決に取り組んでまいります。