『香ばし麺の五目あんかけ焼そば』
“香ばしさ”を追求した開発秘話

町中華の“香ばしさ”を目指して。
100通り以上の試作から生まれた新技術
「町中華で食べるような、本格的なあんかけ焼そばを冷凍食品で作りたい」。その挑戦の裏には、既存の冷凍あんかけ焼そばでは実現し切れていなかった“香ばしさ”への強いこだわりがありました。
当時、市場にはすでに「あんかけ焼そば」の冷凍食品が存在していました。しかし、「ニチレイフーズの技術なら、もっと香ばしく、本格的なあんかけ焼そばがつくれるはずだ」という思いが、プロジェクトの出発点となりました。
香ばしい麺を提供するためには、しっかりとした加熱、焼目付けが必要となります。香ばしさを追求する上で技術的にボトルネックとなっていたポイントの一つは「加熱すると麺同士がくっついてしまう」点でした。通常の焼き方では、水分やでんぷん質が麺の下の焼面にたまり、強く加熱すればするほど麺が固まってほぐれにくくなります。逆にほぐれやすさを優先すれば加熱が弱まり、香ばしさが出にくくなってしまいます。その両立が難しい中で、開発メンバーが導き出したのが「上面焼き技術」というアプローチです。
麺を焼く際に上側から焼くという工程を採用し、麺のくっつきのもとになる水分やでんぷん質が自然に下へ落ちる構造を作ることで、焼き色と香ばしさ、そしてほぐれやすさを同時に実現できると考えたのです。とはいえ、理論通りに仕上がるほど甘くはありません。特注の上面焼成設備を導入したものの、期待通りの結果が得られず、麺の盛り方や加圧の均一性、焼成面の加熱温度や時間など、あらゆる条件を細かく見直す必要があったそうです。焼成ムラを抑えるために、台形型に盛りつけて上下の圧力を均等に伝えるなど、実験と検証を何度も重ねる中で、ようやく理想的な焼き目にたどり着いたのです。(特開2024-179970)

さらに、焼き面の香ばしさやこんがり感が感じられるように、焼き色や香ばしさの素になるメイラード反応も強化を図りました。
従来、電子レンジ調理のグラタンなどで利用している配合をベースにしつつ、文献を調べ、醤油や砂糖などの焼けた香りを手がかりにしながら、さまざまな素材を組み合わせてスクリーニング。およそ100パターン以上の試作を経て、加熱時にしっかり香ばしさやこんがり感が引き立つ配合を完成させました。

細部に宿る「五目あん」へのこだわり。
シャキシャキ感と香ばしさを追求
『香ばし麺の五目あんかけ焼そば』の魅力は、麺の香ばしさだけではありません。もう一つの大きなポイントが、「五目あん」に詰め込まれた工夫とこだわりです。中でも特に注力したのが、具材の“シャキシャキ感”と、口に広がる香味の演出だったと聞いています。
既存の冷凍あんかけ焼そばの具材はレンジ対応のパウチを使用しているケースが多く、加熱中に具材が煮込まれ過ぎてしまうという課題がありました。
そこで私たちは、お店で提供されるようなシャキシャキとした炒め野菜の食感を目指し、具材とあんを別々に加熱するという新たな調理工程を導入しました。塩分や調味料が野菜に長時間触れると、浸透圧の影響で水分が出てしまうことから、野菜には極力調味料を加えず、最適な順番とタイミングでそれぞれの加熱処理を行う仕組みを構築。この手法を実際の製造ラインで実現すべく、通常なら一つの鍋で調理するところを、あんと具材で二つの調理工程を使い分け、機器もそれぞれ個別に整備。最終的には一つのトレイに収まりますが、その瞬間までそれぞれのおいしさを保つような設計がなされています。

さらに、味の決め手としてこだわったのが、香味油として使用したごま油です。お店でよく使われる、仕上げに香り高い油を鍋肌に回しかけて一気に香りを立たせる技法の再現を目指しました。トレイ容器という特性を生かし、電子レンジで加熱した際にふわっとごま油の香りが立ち上がるよう、あえて最後に油を“後がけ”する工程を設計。設備自体もそのために新たに導入されたもので、タイミング、量、位置のすべてを綿密に調整しています。
また、具材の原料選定にも妥協はありませんでした。白菜やにんじんは、生の食材を使用。目指す食感を実現するため、調達から生産工場での扱いまで、各部門の連携のもと適切な管理が行われています。

冷凍麺に、驚きとおいしさを。
挑戦を続ける商品開発部の思い
『香ばし麺の五目あんかけ焼そば』は、完成までの道のりの大変さや、それでも最後まで妥協せずにこだわり抜いた先輩たちの姿を見てきたからこそ、発売後に得られた反響は本当に嬉しいものでした。
実際、2023年10月から2024年3月の半年間で500万食以上の出荷を突破し、社内でヒットの目安とされる「月間10万ケース」の出荷も、発売2カ月目で達成しました。営業や製造のメンバーをはじめ、全社一丸で「この商品ならいける」と確信して動けたのは、まさに商品の力があったからだと思っています。
複数の独自技術については特許を出願し、社内でも開発に用いた技術は高く評価され、社内表彰である「発明褒賞」も受賞しています。「技術の塊のような商品だ」と驚かれることもあり、そうした声を聞けるのは、開発を引き継いだ私として素直に嬉しいことです。
今回の開発で培われた技術・ノウハウは『本当に旨い担々麺』や『コクと旨味の魚介豚骨ラーメン』などの商品にも応用されています。また、メイラード反応の焼き目技術や上面焼き製法は汎用性が高く、炒飯やハンバーグなど、他ジャンルにも展開できる可能性があると感じています。もちろん、『香ばし麺の五目あんかけ焼そば』もまだまだ良くできると信じており、さらなる改良に取り組んでいます。
私がニチレイフーズに入社して驚いたのは、技術に対するこだわりの深さと、それを実現するための社内環境の強さです。商品開発、研究開発、装置開発の各担当が日常的に顔を合わせて話せる距離感にあり、スムーズに議論と実行ができる体制が整っています。こうした環境の中で、他にはない新しい技術やこだわりを込めた商品を皆様の食卓に届けていきたいです。
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