冷凍食品のおやつとして大人気のニチレイ『今川焼(あずきあん)』は、25年以上愛されるロングセラー商品。その舞台裏には、理想のあんこを追い求める開発者のドラマがありました。
甘いもの嫌いから一転、1日に「今川焼」を多いときで30個以上食べる猛者となったニチレイフーズの城戸俊治さんに、あんこへのこだわりや開発秘話を伺います。
有名店のあんこを徹底研究。甘いもの嫌いが一転、体重20kg増量するほどの甘党に
――発売開始されたのが1994年。城戸さんが担当されたのは2016年からですが、当時は甘いもの嫌いだったそうですね。
城戸さん:「個人的にはガッツリした料理が好きで。特にラーメンに関しては、都内の有名店はあらかた制覇していると思います。だから、実は甘いものって担当になるまではあまり食べていなくて……。でも、『今川焼』担当になって味の特徴や風味を意識して食べてみたら、ああ美味しいなって素直に思えたんですよね」
――そこから甘いものにも興味を?
城戸さん:「もともと食べることは好きだったのですが、リサーチと称して甘いものをたくさん食べていたら3年で20kgも体重が増えました(笑)」
――切り替えがすごい。どんなスイーツをリサーチされたのでしょうか?
城戸さん:「どら焼きやたいやき、きんつば、あんぱんなどあんこを使った全国の有名店のスイーツを徹底的に調べました。あんこ屋さんに美味しいあんことは何なのか、勉強会をしていただいたりもしましたね。最近もあんこの情報にはアンテナを張っています」
おなじみの『今川焼(あずきあん)』の味。実は約2年ごとにアップデートされていた!
――開発担当になった当初だけでなく、リサーチは今も続けていらっしゃるんですか?
城戸さん:「もちろんです。新しくできた評判のお店や、たまたま見つけて気になったお店などもチェックしていますしね。改良のヒントは常に求めています」
――改良……? 『今川焼(あずきあん)』はもう完成された商品なのだと思っていました。
城戸さん:「今の『今川焼(あずきあん)』でもお客様には十分高い評価をいただいていますが、僕たちは100点満点だとは思っていなくて。必ずどこかに改良の余地はあるはずなんです。だから、ニチレイの『今川焼(あずきあん)』はだいたい2~3年に1回ぐらいの割合でアップデートしているんですよ」
――知らず知らずのうちに、より美味しく進化していたんですね。
城戸さん:「『今川焼』って流行にも左右されない単純なお菓子なので、手を加えるのがとても難しい商品なんです。その中でもあんこの改良はより難易度が高いんですよね。でも作り手としては妥協したくない。毎回頭を悩ませながらさらに美味しくなるように研究を重ねています」
理想のあんこを求めすぎて「妖怪」に!?
――パッケージにもある「つぶあんを極めた」というフレーズ、攻めてますよね。
城戸さん:「今川焼やたいやきの有名店に行くとあんこだけで売っていたりしますよね。それだけ和菓子にとってあんこは重要。だから『あんこを極める』ことがイコール『今川焼を極める』ことになるんです」
――ニチレイ『今川焼(あずきあん)』にとっての「理想のあんこ」とは?
城戸さん:「『程よい粒感が残っていて、あずきの風味があるあんこ』です」
――ちょっと難しいですね……。「粒感」「風味」とは具体的にどういったことなのでしょうか?
城戸さん:「風味は、砂糖由来の甘い香りやあずき自体の豆の香りなど、あんこを食べたときに受ける印象ですね。人によって風味の感じ方は異なりますが、ニチレイフーズでは専用の機械を使って風味の成分を数値化することで、改良時の目安にしたりしています」
――なるほど。風味の感じ方には個人差がありますが、それを客観的に可視化できるんですね。
城戸さん:「例えばたいやき店Wのあんこは糖度がとても高い、反対に今川焼店Aはとても糖度が低くて風味はこの傾向……とか。そうして目指すべき風味を導き出しました」
――想像以上にハイテクですね。では「粒感」とは?
城戸さん:「粒感は食べたときの食感、あずきの粒の感じ方ですね。こっちは逆にローテクな調べ方で。有名店のどら焼きやたいやきなど、とにかく生地をはがしてあんこの粒を観察したり、あんこを取り出して水洗いしてみたり……。『妖怪あずき洗い』ならぬ『妖怪あんこ洗い』ですね(笑)」
――あんこを洗うって面白いですね。
城戸さん:「洗うと粒感がよりはっきりと分かるんですよね。煮すぎているあんこはあずきの皮だけになりますが、やっぱり人気店のあんこは程よく豆の形が残っているものが多いんです」
粒感と風味のジレンマから「最高のあんこ」が生まれた
――そうして導きだされた理想をどう実現したのでしょうか?
城戸さん:「これがとても苦労しました。あんこって粒感を出すには、あずきをあまり煮ないほうが良い。でも風味を出そうとすると、あずきはしっかりと煮たほうが良いんです」
――粒感を立たせようとすると風味が立たず……。難しいジレンマですね。
城戸さん:「あずきの加熱時間を短くして、その代わり煮汁を戻してみたり、渋切り(ゆで汁を捨てて苦味成分を除くこと)の工程の回数や時間を微調整したり……そうして粒感と風味のちょうど良いバランスを探っていったんです」
――あんこって奥が深いんですね。
城戸さん:「最終的には生地に対する存在感も重要なので。あんこの味や質はもちろん、生地の量、あんこの量を1g単位で調整する世界なんですよ」
“食べない「利きあんこ」”に挑戦! ところが…
――城戸さんは和菓子を分解したり粒感を極めるあまり、実際に食べなくてもあんこを見分けられる特技を編み出されたとか。今日は、そんな城戸さんに利きあんこに挑戦していただこうかと。
城戸さん:「ちょっと自信ないですね……」
――ラインナップはニチレイ『今川焼(あずきあん)』とW店のたいやき、A店とG店の今川焼のあんこです。
城戸さん:「①はわかります。W店じゃないですか? ②もうちのと違いますね…A店のような気がします」
――さすが正解です! お店も判別できるんですね。素人目には全然わからないです。
城戸さん:「③と④が難しい…。参ったなぁ、自社のがわからないってまずいよね」
――では特別に……試食してみてください。
城戸さん:「ニチレイの『今川焼(あずきあん)』はここまで糖度が高くないはずなので、③かな。④も粒感は似ているけど……、③でファイナルアンサーです!」
――……正解です! 良かった私もドキドキしちゃいました。
城戸さん:「いやぁ、実際にやってみると難しいですね」
開発者が教える! あんこを最大限に楽しむ食べ方
――あんこの魅力を存分に教えていただいたところで。あんこの美味しさを最大限に引き出すニチレイ『今川焼(あずきあん)』の食べ方を教えてください!
城戸さん:「パッケージ裏面でも推奨しているとおり、電子レンジで温めてからオーブントースターで少し焼いてもらうのが一番美味しいと思います。電子レンジで温めるとどうしても生地が蒸れるので、最後に水分を飛ばしてパリッとさせると、生地がぐっと締まってあんこの味が引き立つんです」
――焼き立て感も出ますよね。
城戸さん:「あとは、乳製品との相性が良いので、ぜひ一緒に食べてみてください。バニラアイスや生クリーム、クリームチーズなんかも良く合いますよ」
「あずきあん」だけじゃない! 期間限定フレーバーのこだわりとは?
【これまでに発売された「あずきあん」以外のシリーズ商品】
――春夏・秋冬に登場する期間限定のフレーバーは毎年話題になりますね。
城戸さん:「定番が大きく変えられない分、季節商品はいろいろ冒険しています。2017年に発売した『塩バニラキャラメルクリーム』は当時流行したアイスからヒントを得ました」
――チョコ味も単に「チョコレート」ではなく、その年によって変化していますね。
城戸さん:「『濃厚』だったり『ベルギーチョコレート』だったり、その時々の流行を意識して、商品自体を進化させています。毎年バレンタインシーズンにはデパートのチョコレート売り場に行って傾向を研究したりしているんですよ。1人でパンフレットを読み込みながら……」
――開発者魂ですね。そんな城戸さんの思い出の期間限定フレーバーは?
城戸さん:「ボツになってしまったけど、『ラフランス味』は自信があったんですよね。いつか実現したいです」
――それはぜひ食べてみたいです! では最後に「今川焼」ファンにひと言お願いします。
城戸さん:「今のニチレイ『今川焼』も100点ではない。より多くの方に受け入れていただけるよう、1点2点でも引き上げられるように改良を続けていきますので、これからもどうぞ『今川焼』ファンであり続けてください。私自身も頑張ります!」